
創業から60年、整理加工事業を中心に群馬の繊維産業を支えてきた有限会社三宝。その歴史は、時代の変化に合わせた「決断」と「挑戦」の連続でした。今回は3代目代表の永井隆昌さんと、姉であり三宝の歴史を見続けてきた永井愛美さんに、三宝の歩みとこれからについてお話を伺いました。
異業種からの転換――1978年、三宝の「整理加工」の原点
――三宝の整理加工事業のこれまでを教えてください。

永井 隆昌(以下、隆昌):三宝のルーツは、実は段ボール製造なんです。転機が訪れたのは1970年代後半。当時、繊維産業が非常に盛んだったここ群馬で、高校生だった父(現会長)が親戚の染色工場でアルバイトをしたのが始まりだそうです。そこで整理加工の工程を知り、その可能性を当時社長だった祖父に伝えたのだとか。
永井 愛美(以下、愛美):祖父はとにかく勢いのある人で、新しいことへの挑戦に迷いがなく、すぐに全長40メートルほどある大きな整理加工機を取り入れる決断をしました。「群馬の地場産業のなかで、新しい挑戦をしたい」という想いが、何より強かったんだと思います。
隆昌:そうして1979年、整理加工事業がスタートしました。最初は地元の小さな案件の受注からでしたが、時代の流れとともに事業も成長し、1990年には段ボール事業である紙器加工部門を畳み、整理加工の設備をさらに拡充して、この道一本で生きていく覚悟を決めた――あのときの祖父と父の決断があったからこそ、今の三宝があるんです。
――クライアントの特徴は時代の流れによって変化はありましたか。
隆昌:もともとはカーテンなどのインテリア資材の整理加工がメインでした。でも2000年代に入ると、そうした大型製品の生産拠点がどんどん海外へ移っていき、それに伴って整理加工の発注も減少して。
2台目の整理加工機を導入することで新たに挑戦したのが、産業資材の分野です。自動車関連の資材、エアコンのフィルターといった、より高い精度と機能性が求められる資材関係の仕事も受けるようになりました。
愛美:今の三宝の強みである「幅広い対応力」は、この時期に培われたものですよね。

隆昌:2代目の整理加工の機械は今も主力設備なのですが、汎用性が高く、多様な素材に対応できる設計です。時代に合わせた需要に応じたことで、繊細なコントロールが必要なアパレル向けの加工にも、柔軟により深いレベルで対応できるようになりました。
この機械の最大の特徴は、330センチという加工幅に対応できること。アパレル向けの一般的な生地幅は150センチ程度、カーテンでも200センチ弱が標準です。もともとは産業資材の加工に対応するために導入したものですが、この「広幅かつ多様な素材に対応できる」というポテンシャルがあったからこそ、多岐にわたる受注が可能になりました。三宝のターニングポイントですね。
唯一無二の風合いを作る、三宝独自のカスタマイズされた「技術」
――「幅広い対応力」のもう一つの要は、他社にはない独自に改造した設備だと伺いました。
隆昌:父の代にご依頼に応じて自分たちでカスタマイズを繰り返していたのも三宝の機械の特徴です。薄くやわらかい生地を扱うための設備は、理想の質感を追求するために自社で開発しました。完成した機械は僕の代に受け継がれ、まさに「うちだけのオリジナル」と言えるものです。
愛美: 薄手の生地は素材によって熱や引っ張りの強さ(テンション)の違いの違いでも風合いや仕上がりに大きく影響します。そのため、美しく安定して仕上げるには、一般的な設備では難しい繊細な温度管理と加工環境が必要です。

愛美: 熱源をガスから貫流ボイラ(オイル式)へと変更したことも大きな決断でしたね。
隆昌:ガスだと熱の加わり方によって布が変色してしまうことがあるんです。それをボイラに変えることで、生地の変色を防ぎ、かつ理想の風合いに仕上げられるようになりました。貫流ボイラにしたことで可能になった「安定した美しさと手触り」、これが三宝の技術だと思っています。
――機械への強いこだわりを感じますが、それはなぜなのでしょうか。

隆昌:かつて先代たちは、時代の変化に合わせて数百万円かけて機械を改造し、ときには失敗し、試行錯誤を繰り返してきました。その積み重ねは、三宝の新しい技術を生むための「器」になっていると思っています。
正直に言うと、僕個人としては機械そのものへの愛情というより、その先にある「布の面白さ」に突き動かされているんです。繊維は、糸の種類、織り方、構造、そして付加価値加工の組み合わせ次第で、無限に表情を変えます。
「この素材にあの加工を掛け合わせたら、まだ誰も見たことがない機能や美しさが生まれるんじゃないか」そんな好奇心が、未だに尽きないんですよ。環境に配慮した新素材なども出てきていますし、まだまだできることがあると思う。繊維業界がとにかく魅力的で楽しいんです。
愛美:隆昌さんを横で見ていても、探求心は本当にすごいなと思います。そうやって積み上げてきた技術をただ取り入れるのではなく、現場の人たちも含めて、みんなでもっと新しいものづくりに挑戦していける環境を整えたい。それが、これからの三宝が進むべき道だと思っています。
「待つ工場」から「提案するパートナー」へーー三宝の未来について
――現在、繊維業界では後継者不足も課題になっていますが、三宝はいかがでしょうか。
隆昌:三宝についてはその心配はありません。僕自身が昨年、社長に就任し、現場を支えるメンバーも大きく若返りました。僕のバンド活動を通じて知り合った仲間たちが入社し、業界未経験でも、若いからこその柔軟さと意欲で日々の業務に向き合ってくれています。かつては高齢化が進んでいた作業スタッフも、今では若手へと世代交代が進んでいます。この先も長く事業を継続していけるよう、全力で取り組んでいきたいですね。
――これからの三宝が目指す「挑戦」のかたちについて教えてください。
隆昌:これまで三宝は、お客様からの要望を待つスタイルが一般的でした。でも、日本の繊維業界が衰退していくなかで、僕たち自身が「仕事に挑戦し、失敗し、学んでいく」必要があると感じています。「こんな良い生地ができました。これを使ってこんなことができます。一緒に何か作りませんか?」と、こちらから選択肢を提示できる存在になりたいんです。
今、ファストファッションの普及もあり、服の素材に目を向ける人は減ってきています。だからこそ、もっと世間の人に布への興味を持ってもらいたいんです。その第一歩として、いま自社で「麻のタオル」を試作しています。独自の柔軟加工で「麻=ゴワゴワ」という固定観念を覆す肌触りを目指しており、こうした自社製品を通じて布に興味を持つ人たちを増やしていきたいです

――お客様とはこれからどのような関係を築いていきたいですか?
愛美:「日本のものづくり」をどう守り、どう繋いでいくか。それを一緒に考えられる仲間を増やしていきたいですよね。
隆昌:整理加工事業を通して培った技術力を存分に発揮し、新しい挑戦を止めず、変化を恐れずに、着実に成果をあげていく。これからの時代の繊維産業を、お客様と一緒に支えていきたいと思っています。