創業60年。群馬の繊維産業を支えてきた三宝が今、新たな取り組みとして「プリント事業」を展開しています。

整理加工の現場で培われてきた知識が、プリント事業でどう活かされているのか。三宝ならではのプリント技術と、業界の未来を見据えた熱い展望について、代表の永井隆昌さんと、姉であり三宝の歴史を見続けてきた永井愛美さんにお聞きします。

バンドマンの3代目社長が新たに挑戦するプリント事業

――なぜ、整理加工という要の事業があるなかで、プリント事業を始めたのでしょうか。

永井 隆昌(以下、隆昌):日本の繊維業界の落ち込みも肌で感じていて、三宝も整理加工の事業だけでは生き残れないという危機感がありました。いろいろと試行錯誤していたなか、繊維機器の展示会で、一台のデジタルプリンターに出会ったんです。

僕はもともとバンドをやっていて、高校生の頃からシルクスクリーンで自作していました。だからこそ、その機械が一瞬でフルカラーのTシャツを刷り上げる光景を見たとき、「すごい、これだ!」と感動してしまって。その場で「絶対にやりたい」と心が決まりました。

隆昌:意を決して父のもとへ行き、機械を買う資金を借りるために頭を下げました。父は「やったほうがいい」と即決してくれましたが、そこからはプレッシャーとの戦いでした。周囲からは「お坊ちゃんが遊んでいる」と思われていたでしょうね。でも、僕の中には「5年以内に整理加工事業を抜いてやる」という野心がありました。

永井 愛美(以下、愛美):私はその頃、東京にいたのですが、 弟が何か面白そうなことを始めるらしいと聞いて会社に戻ってきました。小さい頃から三宝の事業を見ていて、どこか未来が見えにくい側面があった。でも、彼が新しい可能性に目を輝かせる姿を見て、一緒に挑戦してみたいと思ったんです。

隆昌:機械を導入してプリント事業を始めたのが2019年。スタート直後にコロナ禍に見舞われましたが、徐々にバンドマン仲間から、Tシャツなどのグッズ製作の依頼が増えてきました。最初は仲間内の仕事で始まった小さな事業でしたが、次第に活動の場を広げ、今ではアパレルブランドの仕事も手広く手掛けるようになりました。

――プリント技術はどのようにして磨いていったのでしょうか。

隆昌:アパレルの受注内容は本当に細かくて調整の連続です。インクの色を中心に繊細な仕事が求められます。でも、そういう一つひとつのこだわりが学びとなり、三宝のプリント技術が磨かれていきました。

もともと、バンドの物販であっても、もっと本格的なものづくりをして、クオリティを良くしたいという想いがあったんです。試行錯誤を繰り返すなかで、今ではお客様の要望に柔軟に対応できるようになりました。

愛美:最初は工場の端っこの小さな部屋で、試行錯誤をしながら二人で作業していたんです。でも、そこから少しずつ設備も増え、できることが広がっていきました。

隆昌:プリント事業をやり始めたことで、自分自身で「0から1を生み出す」という体験を初めてできました。友達に声をかけるところから始まり、一つひとつ経験値を積み上げてきた。このプロセスこそが、社長としての僕の大きな自信に繋がっています。プリント事業開始から6年目には、ついに売上で整理加工の事業と肩を並べました。今期は、圧倒的な差をつけて追い抜くつもりです。どちらも会社にとって大切な事業なんですけどね(笑)。

整理加工の知見が息づく、三宝ならではのプリント技術

――三宝には、どのようなプリント機械が揃っているのでしょうか。

隆昌:繊細なフルカラーを再現するガーメントプリンターをはじめ、、鮮やかな発色と、大量生産にも対応できるDTFプリンターなど、幅広く取り揃えています。お客様の「作りたいもの」に対して、常に最適な手段を用意しています。

愛美:プリント業界では、シルクスクリーン専門の会社、あるいはデジタルプリント専門の会社というように、会社の設備によって得意分野が分かれている場合があります。三宝はお客様のご要望に応えられるように、さまざまな機材を導入してきました。多様な機械が揃っているので、デザインの細かさやロット数に合わせて、どの機械を使うのがベストかを判断してご提案できます。そこが私たちの大きな強みですね。

――その「提案力」の裏付けになっているのが、三宝のルーツである整理加工の知識だとか。

隆昌:僕の中では整理加工もプリントも、「布に付加価値をつける」という意味で同じプロセスだと思っています。だからこそ、整理加工で培ってきた考え方や視点が、そのまま今のプリント事業に活きているんです。

プリントの工程では、最後に生地に「熱」を加えてインクを定着(硬化)させるんです。でも、生地によって耐えられる温度はバラバラ。僕たちは整理加工の現場で、様々な生地に熱や圧力をかけて、地道に作業に向き合ってきました。だからこそ、その生地が何度までなら耐えうるのか、あるいはどの温度を超えると二度と戻らない跡が残ってしまうのかといった判断が、知識としてあるんです。

お客様が用意された持ち込みのボディへのプリントを希望されるケースもあります。そうした際、無理に加工して失敗を招く前に、プロの視点からベストなプリント技術を提案します。

「このTシャツに、ぷっくりとした発泡プリントを施したい」とイメージを語るお客様に、着心地を含めた全体的な仕上がりイメージと、生地の特性を考慮して、シルクスクリーンでのプリントを提案したことがあって。結果として「いいものができた」と喜んでいただけたのは嬉しかったですね。

――お客様にはどんな思いを持ってご要望を受けているのでしょうか。

愛美:技術的に難しいことをお願いされることもありますが、できる限りお客様の想いに寄り添いたい、というのが三宝のスタイルなんです。単に発注を受けて刷るだけの作業ではなく、一緒にものづくりに取り組む気持ちで現場に立っています。

隆昌:今の時代、Tシャツプリントを安く請け負う場所はいくらでもあります。でも、いざ届いた製品を見て落胆するようなものづくりは、僕たちのやりたいことじゃない。最高のものをお届けしたいという強い信念があります。

かつての日本のアパレルは、一切の妥協を許さない品質基準を築き上げてきた。何度もやり直しを求められるような細かい調整も、すべては納得のいく一着を届けるための大切なプロセスです。そうした手間を惜しまない日本のものづくりの技術を学び、三宝だけの価値を確立していきたいです。

業界で手を取り合い生き残る。三宝が担う「ディレクション」の役割

――今後、三宝のプリント事業はどのような展開を見据えているのでしょうか。

隆昌:三宝でプリントするだけでなく、他のプリント業社へディレクションができる存在になりたいです。繊維業界全体が抱える構造的な課題として、小ロットで細やかな仕事が増えている現状があります。こだわればこだわるほど現場に負担が大きくなり、本来の技術力が正しく循環していない工場も少なくありません。

三宝が培ってきた技術や知識を、自社のプリントだけに活かすのではなく、繊維業界全体に還元していきたいです。つくり手が誇りを持って仕事を続けられる環境をつくることこそが、これからの三宝の目指す姿です。

そのために、まずは自社商品の開発や販売を通して、モノづくりの魅力を広く発信し、業界を盛り上げていきたいと考えています。そしていずれは、現場に携わる人たちへの素材や道具の供給までを手掛け、つくり手を支える側としての役割も担っていきたい。三宝という存在が、これからの日本のモノづくりを支える基盤になれたらと考えています。